そのさん

そのにから結構時間が経ってしまったかもしれない。すっかり忘れていた。

今年の2月1日、私の誕生日。その日に彼と初めて会った。それまで毎日連絡をとっていたし、初めてという感覚はほとんどゼロだったが、それでも私はやっぱり緊張していた。

渋谷までの道中心臓はバクバクうるさいし、何となく両手の感覚もぼんやりとしたものになっていた。

そんな緊張を抱えた中、渋谷に着いたわけだがどこに集合かなんて明確には決めていなくて、私は急いで彼に連絡を入れた。

「どこにいます?」

「ヒカリエにいます!」

「向かいますね!」

方向音痴な私はここでも緊張した。たどり着けるかな、なんてヒヤヒヤしたが、意外にも迷うことなく無事ヒカリエへの連絡通路にたどり着き、私はエスカレーターに乗った。

このエスカレーターを昇ったところに彼がいるのかもしれない。どんな顔すればいいんだ。ネットで仲良くなった人と会うのは別に初めてでもないのに、そんなことをグルグル考えるていると、ヒカリエ内に全身真っ黒の背の高い男性がいるのを見つけた。彼だ。

別にちゃんと顔を見せてもらったことも無いし、服はいつも黒ばっかり着てしまうという話を聞いたことをぼんやりと覚えていただけだったのに見た瞬間すぐに分かった。

私はどんな顔で会えばいいのか、なんてさんざん考えていたはずなのに、彼を見つけた瞬間頬が緩んでしまって一目散に彼の元に向かった。

彼も私を見た瞬間に誰だか分かったのか、笑顔を向けてくれた。はじめましてなんて言葉も交わさずに、未計画な私たちは何を食べようかと話しながらヒカリエを出た。